文系出身者の建築構造計算 GenS Weblog

建築構造計算に関する情報 と 文系出身のGenSが極めて私見を綴ったWeblogです。たまに趣味ネタも書いてます。


セミナーを受講しての感想

講師の世良先生,遠方から所員を連れて前泊してまで来られてた懐かしい方,毎年某構造事務所の忘年会の席でしかお会いしない方,それに昔の仲間・・・
皆さんとお会いできたことが嬉しかったですね。

講習内容に関しては,想定の範囲内というか特に発見はありませんでした。
免震告示2009号による構造計算は過去に二棟しか経験ありませんが,会社勤めしてた頃に自分でEXCELシートを作って計算してましたし,オーダーソフトの開発もしましたので,手前味噌ですが等価線形解析の概念は消化できていると思っています。

ただ,性能設計を謳い文句に登場した限界耐力計算や免震告示ですが,限界耐力計算が経済設計の道具として乱用されたことや耐震偽装事件もあり,2007年辺りに仕様規定的な足枷ができ,適合性判定制度の導入などもあって,今では誰も使っていないのが現状ではないでしょうか。
あるとすれば既存建築物に対する後ろ向きな仕事での利用くらいなものです。

私には,免震告示も含めて等価線形解析による構造計算は,急に減速(あるいは消滅)してしまった感がありました。
私は,今年だけでも複数棟の免震構造の設計に関わりましたが,すべて時刻歴応答解析による評定案件です。私の周りで免震告示で設計している人は誰一人いません。
二棟経験があると言いましたが,二棟ともに耐震偽装事件によって構造業界の縛りがきつくなる以前のことで,ともに民間の確認検査機構での建築確認でした。

だから「なぜ今,免震告示なのか?」「免震建築物総数に占める免震告示で設計された割合」など,実績と今後の展望などを質問しようかと脳裏を過ぎりましたが,訊き方によってはちゃぶ台をひっくり返すことにもなりかねませんのでやめました。

受講してよかったことは,私の長周期地震に対する備えに関する自論は間違ってなかったなぁと思えたことでしょうか。
多田先生の「四秒免震への道」を読んで,「いくら四秒という固有周期の長い建物を作っても,四秒の地震が来たら共振して駄目なんじゃないか?」という方がおられました。
そこに十勝沖地震で長周期波によるスロッシングが原因で石油タンクの火災が起きたことや,その後も地震のたびに長周期波が何かと議論されるようになり,「もし来たら」という仮説の話ではなく,最初から設計において想定すべき問題へと変わって行きました。既に評定の場で直接的な検証を求められるケースも出てきています。

しかし,弾性応答なら周期四秒の建物に四秒の波が来たら確かに共振しますが,免震建物は免震材料が大きく弾塑性変形することにより,免震層で地震エネルギーを消費して上部へ伝えない構造です。
だから,ここに等価線形的発想を持ち込むのは間違っていると思います。決して四秒の弾性固有周期ではなく,大きな履歴ループを描きながら弾塑性応答しているんですから・・・。

結局は,出来るだけ固有周期を伸ばすとともに,十分な減衰を与えることに尽きる(与え過ぎてもいけませんが)と思います。
受講者の質問に対して,世良先生もそういうニュアンスの回答をされていて,私は思わず大きく頷いてしまいました。

超高層建築物の設計でも,地盤の卓越周期よりも長い固有周期を持っていて,塑性化に伴い更に長周期化する(→応答が減る)という理屈で成立しています。
もし,建物の固有周期よりも長い周期域にも地盤の卓越周期の山があるとすれば(応答スペクトルが右肩上がりの領域),すなわち,塑性化する→剛性・耐力共に低下する→長周期化する→入力地震エネルギーが増えるという状況は,想像するだけで恐ろしいことです。

耐震構造は,逸散を除けば自らを壊すことでしか減衰は増えませんが,免震構造なら構造設計者が必要量を与えることが出来ます。しかも現場で施工したRC部材のような復元力特性が不明瞭な材料ではなく,免震材料はばらつきの少ない工業製品です。

解析的にも上部を1質点(あるいは剛体)と仮定した計算が成り立つわけですし,レベル2に対して上部を許容応力度設計すれば済みます。
面圧検討や1Gと下部構造へのP−δとQ−hの考慮など,慣れない免震ならでは検討項目もありますが,理解に苦しむような複雑怪奇なものは一切ありません。
私はこれほど解析モデルがシンプルで設計が容易な構造は他にないと言っても過言ではないと思います。
にも関わらず,一般に遅々として普及しないことへの苛立ちにも似た思いと,自分自身に出来ることを考えたときに,世良先生が出された答えが今回のセミナーだったんではないでしょうか。

私のような末端の半端な人間には何も出来ませんが,これからも「解析的な協力という形で構造技術者の皆様のお役に立ちたい」と,想いを新たにしました。
世良先生,昨日は本当にありがとうございます。先生の益々のご活躍に期待するとともに,陰ながら応援させていただきます。

免震構造普及への鍵も自論というほどのものもありませんが,あの高山先生に対して酔っ払った勢いで説教するように言った想いはありますので,またお話ししたいと思います。

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