文系出身者の建築構造計算 GenS Weblog

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免震建物の引き抜き面圧との格闘 その2

免震材料の面圧を検討する際の軸力は,一貫構造計算プログラムで得られた地震荷重時の支点反力に,免震層における転倒モーメントの静/動比率を乗じた値を用いることが一般的だと思います。

長期軸力算出用の積載荷重は,架構設計用のままの場合が多いと思いますが,わざわざ地震荷重時用にして別途求められる正攻法的な設計者もいます。

かと思えば,長期軸力は架構用積載で,上下動による変動成分だけは地震用積載にするというちょっといいとこ取りのような方も中には居られます。

また,免震材料の鉛直剛性については,高層系で軸力の変動が大きな場合では,支点の鉛直バネとして免震材料の圧縮剛性を与えられる方が多いと思いますし,倉庫等の比較的低層の場合では鉛直バネは固定のままという場合もあるでしょう。

しかし,これらの支点反力に関係する条件は,設計者の工学的判断の範疇であって,静的な反力結果に静/動O.T.M比率を乗じて動的な反力結果を得ているという意味では(支点反力の変化がO.T.M比率によるLinearな変動),なんら変わりありません。

私が行っている方法は,積層ゴム支承の圧縮剛性に対する引張剛性が1/10〜1/20程度である事実に着目し,地震荷重による支点反力の変動と上下動を考慮して,支点反力が長期軸力を下回って負に転じた瞬間に,支点バネを圧縮時の1/10〜1/20に低下させるというものです。

つまり,免震材料の鉛直剛性に関する非線形性を評価した計算を,一貫構造計算プログラムであるSuperBuild/SS3(以下,単にSS3と記述)を使って行うものです。

引き抜き時の剛性が変化するという意味では,IBTワッシャー等の皿バネを用いて引き抜き時に抵抗しない場合も,バネを微少値に設定することで表現可能です。
この手法は,SS3の前身であるSS2がひび割れを考慮した保有水平耐力計算機能を備えたことと,支点バネについてもTri-Linear型復元力特性を設定可能になったことをうけて思いつきました。
ですので,私が最初にこの計算を行ったのは,SS3ではなくSS2だった頃(4〜5年前)の話になります。

さて,具体的な解析方法の概要を説明する前に,注意すべきポイントを以下に記します。

SS3では,地震荷重時の応力計算においてひび割れを考慮した非線形解析が可能ですが,支点の復元力特性の設定は保有水平耐力計算時にしか働かないという点

上下動を考慮したうえで,支点に引き抜き力が働く瞬間に鉛直バネを変化させなければならないという点

軸力変動がLinearでないため,静/動O.T.M比率を乗じる手法では反力結果を得られない点

以上をまとめると,地震荷重時の反力を保有水平耐力計算によって得る必要がある。そして,上下動とO.T.M比率は外部処理できないのでSS3の中で考慮する必要があるということになります。

以上の注意事項と前提条件を踏まえて計算の概要を列記してみます。

1.支点の鉛直バネ(初期剛性)には免震材料の圧縮剛性を与える

2.保有水平耐力計算は,許容応力度設計時の外力を5倍した水平荷重になるので「推定崩壊荷重の倍率」は0.2とする

3.「支点の考慮」の浮き上がりを考慮する

4.「ひび割れ耐力関連-支点ひび割れ耐力」で浮き上がり耐力に微少値(0では浮き上がりを顧慮できないため)を与え,αyを負値入力(初期剛性に対する比率を与えるモードになる)する
(例:1/10なら0.1,1/15なら0.0666を与える)

5.「終局耐力関連-支点耐力」は,Bi-Linear型としたいので大きな値を与える

6.静/動O.T.M比率を「最大ステップ数」でコントロールするので,荷重増分は「等差級数分割」ではなく必ず「等分割」にする

7.「推定崩壊荷重までのステップ数」は200ステップ(100の方がわかり易いが精度に難あり→200を推奨)とする

8.架構設計用の基本モデルの他に,上下動正側と負側のSS3データを用意する

9.上下動正側と負側のデータに上下動による変動軸力を与える
(本来は全節点が対象になるが,免震層に着目すれば第一層の節点に対する「節点補正重量」の入力で特に問題はないものと考える)

10.静/動O.T.M比率を「推定崩壊荷重までのステップ数」で与えた200に乗じた値を「最大ステップ数」とする
(例:O.T.M比率=0.785ならば,0.785×200=157ステップを「最大ステップ」とする)

11.「浮き上がりのチェック」ではなく,保有水平耐力時の支点反力を用いて面圧を検討する

以上がこの解析手法の概要です。
細かな注意点は多々ありますし,45度方向も検討すると面圧検討用のSS3データは増えます。一回面圧を確認するだけで結構な時間を要します。

しかし,引き抜き力が働いた時点で鉛直バネが低下して,他の支点へ軸力が移った結果を目にすれば,きっと苦労が報われることでしょう。

本来ならば,一般的な面圧検討の方法で引き抜き力を発生させない(もしくは-1N/mm2以下に抑える)設計がベストだと考えます。

しかし,免震構造設計の現場ではそうも言ってられない場合もあるんです。頷いてくださる方は少なくないと私は思っていますが,いかがでしょう?

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